小説「ターミネーターゾーン」
ストーリー本編
「グラーミア」。
それは、赤色矮星「ローゴスミア」の近くを周回する惑星。
地上に届く光が赤いから、空も赤い。
潮汐ロックのせいで、グラーミアはずっとローゴスミアの方を向いている。
グラーミアの片側は常に昼。すごく暑くて生命がいそうにない。
反対側は常に夜。こっちは逆に、寒すぎて誰もいそうにない。
だからその星の生き物たちは、昼と夜の間、つまり夕方の場所に暮らしている。この場所は、人間たちには「ターミネーターゾーン」と呼ばれている……
僕は、今日も自分の畑で採れた野菜をおすそ分けしに行く。
「こんにちはー。」
「野菜、持ってきたよー。」
まずは親友の家。
「お、ありがとー!」
親友はお礼として、自分の牧場で作った肉をくれる。
「いつも助かるよー。じゃあ、はい、今日作った肉だよ。」
「わーっ!こちらこそ、いつもありがとう!」
持っていった野菜の半分は彼にあげる。彼は牧場を持っていて、いつも野菜を肉と交換してくれる。
野菜のもう半分は長老にあげる。
家の畑で野菜が採れた日は、毎回こうして二人におすそ分けしている。
「こんにちはー。」
「野菜、持ってきました〜。」
長老はよくおもしろい話をしてくれる。だから長老の家に行くのは僕の密かな楽しみでもある。
「いつもありがとう。自分にできるお礼などないのに、本当にありがとう。」
長老は申し訳なさそうに、丁寧な言葉でお礼を言う。
少しでも前向きに喜んでほしいから、僕は理由をつけている。
「自分たちだけじゃ食べきれないから、もらってくれるだけで助かるんです。」
でも最近の世の中は、あまり穏やかではない。
人口が増えたせいで、土地争いが増えているらしい。
僕の住んでいる地域も、いつ争いに巻き込まれるかわからない。
家から少し離れたところに行くと、あちこちで物騒な声が聞こえる。
土地を巡って争う声が聞こえる場所は、次第に増えていった。
あちこちで沢山の紛争を目にした。もうこんな暮らしはこりごりだ。
暗い気持ちで地面ばかり見ていたら、よく転がっている複雑な模様の石のことがふと気になった。
でも、僕にはそれの意味することはまったくわからなかった。そこで、長老と親友を呼び、2人に訊いてみることにした。
「ねぇ、2人とも。この辺りって、よくこういう模様の石が落ちてるじゃん?」
「この模様って、他の石とは全然雰囲気が違うからさ。なんでこんな模様なのか知ってる?」
「いやあ。分からないなぁ。」
石の模様のからくりには2人とも心当たりがないみたいだった。
僕はそのまま、模様についてしばらく考えていたが、なんだかおもしろいことになりそうな気がしたので、思いきって2人を誘うことにした。
「じゃあさ、みんなで調べてみない?」
「え?」
すかさず驚きの声を返された。
僕は続けて、
「最近紛争が多いから、気を紛らわすのにちょうどいいんじゃないかと思って。」
と説明を加えた。
すると、二人とも興味を示してくれた。
「確かに。アリだね!」
「おもしろそうだ。」
そんな経緯があって、3人で石の模様の研究を始めることになった。
研究室にする場所は、相談の後、一番火の手から逃れられそうな長老の家の一室になった。
このまま生き延びたところで、紛争に巻き込まれ続け、心も身体もボロボロになる。
だったら、ただ逃げるだけの一生より、この模様について考えている一生の方がよっぽどおもしろい。
僕たちは同じような模様のある石を拾いながら長老の家に行った。
長老の家に到着すると、長老は僕たちを玄関に待たせ、研究室にする部屋を開けるために一人で家の中に入った。
部屋の準備を待つ間、しばらく石の模様を眺めていた親友が、ふと口を開いた。
「もしかして、これって言葉なんじゃない?」
それがきっかけとなって、模様の研究は、文字の研究になった。
しばらくして、長老が僕たちを呼ぶ声が聞こえた。
開けてくれた部屋に入り、その部屋の隅に、みんなで拾ってきた石をまとめて置いた。
ここから、(現代文明の言語と比較しながら、)先代文明の言語について探っていく作業が始まった。
手始めに僕は、隅の山から机へ一つ、石を持ってきた。
「仮にこの模様が言語だとして、どんなことが書かれているんだろう?」
僕が問いかけると、親友はあっと思い出したように声を出した。
「そういえば、そんな模様でもっと大きい石板が、夜の方に沢山あった気がする!!」
親友は、そのまま大急ぎで夜の方に行ってしまった。
親友が帰って来るまでの間、僕と長老だけでも、みんなで集めた石の模様を「読もう」と試みた。
長老は人脈が広くて、夜の言語と昼の言語を少しだけ知っている。
「最初はみんな、何を言っているのか全くわからなかったよ。だけど、お互いに話し合いたいと強く願っていると、不思議と通じるようになるものだねぇ。」
長老が昼と夜の言語を知ったときは、最初、単語からわかっていったらしい。お互いに同じ物を指さして、それぞれの言語で呼んで認識を合わせたそうだ。
ということは、絵の描いてある石から文字の意味を探っていくのが良さそうだ。
こっちの石は図が多く描かれていて、単語の意味を推測しやすい。
図がたくさん書かれた石の記述から、だんだん単語がわかってきた。分かった単語の現代語訳を記録していこう。
[単語表の一部]
ある程度単語が分かったから、ここから文法も推測できそうだ。
[判明した文法のリスト]
ということは、こっちの石の文は、こんな事を言っていることになる……
[先代文明の歴史書の文字]
先代文明の原文
「現代語訳」
(日本語訳: 私たちは、過去の文明による文献の記録を基に、様々な危機を乗り越えることに成功した。)
「」
(しかしながら、過去に文明を築いた存在と我々とは、少し異なった身体構造をしているらしい。)
「」
(よって、現在我々が使用している器具というのは、当時の道具を我々の身体でうまく扱えるように改造したものである。……ここまで便利にするのは本当に大変だった。)
「」
(……しかし、確かに先人の知恵は我々にとって重要な財産となった。だから、記録を遺してくれた彼らに感謝すると同時に、我々も同様、この先ここで興るかもしれない文明のために、記録を残しておくことにした。)
……これは、先代文明の歴史についての記述だろうか。
「おーい。戻ったぞー。」
親友の声で目が覚めた。
どうも僕は、翻訳で疲れて寝てしまっていたらしい。
親友は、手押し車に立派な石板を3枚ほど積んで帰ってきていた。
2人で石板の解読をすると、一つは発音についての記述だということがわかった。
[発音について]
単語帳を広げ、当時されていたであろう発音を2人で言い合った。
「{単語1(?)}!」
「{単語2(?)}!」
「やだなぁ、全然言えてないじゃないか!」
「お前だって!」
僕も親友も何度も言ってみたけれど、やっぱり上手く読めなかった。でも、言えなかったときの発音がまたおもしろくって、笑いながら言い合った。
言い合いの途中で気がついたけれど、どうやら僕たちにはこの音素表を書いた人にあった「{唇の旧文明語}」という器官が無いらしかった。
石板のもう一つは図説で、これのおかげでもっといろいろな単語の対応がわかった。
[追加の単語表]
長老を呼んでこのことを伝えると、懐かしそうに昼と夜にいる友人の話をしてくれた。
「夜に落ちていただけあって、夜の人たちの言葉に似ているね。けれど、なんとなく似ているというだけで、内容は全然違うみたいだ。」
「夜の友達は、植物が好きでね。こんな暗い地域でも、少ない光を身体いっぱいに受けて生きる健気な姿が、彼にとっては愛おしかったんだそうだ。」
「昼の友達は、とにかく声が大きかった。向こうは空の音が大きいからね。いつも大声を自慢していたけれど、どちらかというと脚の速さのほうが印象的だった。」
そう言うと長老は、部屋の棚からボロボロのメモを取り出した。
それは、昼の地域と夜の地域の言葉についてのメモだった。
「これが、昼の友人と話したときのメモだ。」
[音素表(昼)]
[簡単な単語のリスト(昼)]
[簡単な文法、例文(昼)]
「そして、これが夜の言葉。」
[音素表(夜)]
[簡単な単語のリスト(夜)]
[簡単な文法、例文(夜)]
長老が見せてくれた昼と夜の言葉は、どちらも、僕たちの話す言語とは随分雰囲気が違った。
同じ時代でも、こんなに違うなんて。
同じもののことなのに、全く違う言い方をする。今僕たちが使っている言語も、いつかの誰かにとっては全く新鮮なものかもしれない。そんな言語の不思議さにわくわくした。
僕は、わくわくをそのまま翻訳に注ぎたくなって、3つ目の石板に手をつけた。すると、驚いたことに、それは未知のエネルギー源についての記述だった。
「」
([電気]エネルギーについて)
「」
(ここには、[電気]エネルギーの特性、回収方法、取り扱い方法を記す。)
僕たちはこのエネルギーの存在を初めて知ったから、このエネルギーの話については、石板の記述から僕たちの言語に言葉を転写して使うことにした。
「」
([電気]エネルギーは、目には見えないが役に立つ特性を持っている。一つ、金属を使って通り道を自由に決められる。二つ、[電池]により貯蔵することができる。三つ、物を作り変える事ができる。)
「物を作り変える事ができる」って、ひょっとして錬金術?
「」
(我々はこのエネルギーの力を、[電気]による力、すなわち[電力]と呼ぶことにした。)
楽しくて、このままだとモルミアが沈んでからまた上るまでずっと作業を続けてしまいそうだったから、続きは一旦おあずけにした。
まだくすぶる気持ちで、さっき途中で寝てしまったときの続きをもう一文だけ訳してから家に帰った。
「」
(我々は夕方の地域に暮らしていたが、先人の知恵のおかげで新たな居住地の確保に成功した。)
爆発音がした。外を見ると煙が上がっていた。
紛争がもう、ここまで来ている。
争う人々に見つからないよう、静かに急いで研究室へ向かった。
研究室では、長老が電力の文献の翻訳を終えたところだった。
「」
(我々はさらに[電力]を得る方法について検討し、一つの可能性にたどり着いた。)
「」
(手元で金属に温度差を与えると、わずかながら[起電力]が生じたのだ。与えた温度差が大きければ大きいほど、大きな[起電力]が生じた。)
「」
(これを仮に、昼と夜をまたぐ形で設置できたら、安定した[電力供給]が可能になるのではないだろうか?)
そのあとには、夕方地域一帯を昼の方から夜の方までまたいだ巨大な発電装置についての記述が並んでいた。必要な材料、設計図、組み立て方、動作の詳細、できた電力を取り出す方法……どの話も知らない言葉ばかりで難しそうだった。
それらの説明の先に、衝撃的な文章が続いていた。
「」
(……実は、この装置は我々の時代のうちに地中に埋めてある。)
「」
(場所と配置は下図の通り。風化していなければ、後にこの文を読んだ人々にも役立つはずだ。)
その下に記されているのは地図だった。
その地図では、装置は僕たちが生活できる範囲の昼端と夜端を結ぶように、夕方エリアを貫いて埋められていた。
「これは……すごい。」
こんなに大きな設備が埋まっていたなんて。
僕が驚いていると、親友が大きな声で言った。
「ねぇ、ちょっと見に行ってみようよ!」
装置の昼端を見に行く途中、何人かの昼の住人の話し声を聞いた。
(昼語)「なんか、夕族のやつ、戦争してるらしいなー!」
(昼語)「ここはまだ安全なのかな?」
(昼語)「さあな!言葉は通じないから、もし目えつけられたらもう、戦うしかねーのかな?」
2人くらいで話しているようだったけど、その声は、会話に関係ないであろう僕たちにまでしっかり届くほどの大声だった。
暑さに耐えながら、飛び交う声をBGMにしばらく歩いていると、一人が話しかけてきた。
(昼語)「お?なんかお前ら、この辺の奴っぽくないな?どこから来たんだ?」
僕と親友にはその人の言ったことはよく分からなかったけど、長老は声を張り上げて何か返事をしていた。
(昼語)「夕方から来たんだ。少し見に行きたいものがあったもので。」
向こうからの返事もあった。会話が通じているらしい。
(昼語)「それを見に行くだけ?珍しいな。ま、何もしないなら好きにしてくれていいよ!」
昼端があると記された場所には、特に目立った印は無かった。でも、その地点を少し掘ってみると、砂の中から見たこともない構造をした何かの表面が顔を出した。
僕の家と親友の家は紛争に巻き込まれそうなので、
この日は研究室で寝ることになった。
僕たちは装置の昼端を見た感動の余韻を感じながら眠った。
次の日には夜の方にも行ってみた。名目は装置の夜端を見に行くためだったけど、実は装置の見た目は昼端とあまり変わらないだろうと思っていた。
端をもう一度見てみたくなった気持ちもあったけど、僕の中では、昼の住人を見たことで夜の人々にも興味が湧いたからという理由の方が大きかった。
昼とは対照的に寒さの際立つ夜の方は、住人も対照的で静かだった。耳を澄ますと、かすかに会話らしき声が聞こえた。
(夜語)「最近夕方の方が物騒だね。」
(夜語)「うん。でも、きっと大丈夫だよ。こっちには関係ないさ。」
装置の夜端からの帰り道、図がある石板を新しく見つけた。
研究室に戻ってからそれを訳すと、何かの設計図であることが分かった。
翻訳の腕試しを兼ねて、設計図の物をみんなで作ってみることにした。
[光の装置の画像?]
書かれた通りに部品を作り、組み立てると、できあがったのは持ち運べるくらいの大きさの装置だった。
ボタンを押すと、辺りが真っ白になった。
「眩しっ……!」
「こんな眩しい光、不便だ。僕らには役に立たないよ……!」
困る僕たちの言葉を聞いて、長老がひらめいたように言った。
「……いや、そうでもないぞ。我々にとっては確かに困った機能だが……」
そのとき、外から大きな声が聞こえた。
「誰かいるのかー!いたら出てこーい!」
「いないなら燃やすぞー!」
その声を聞いて、僕も長老の言おうとしたことに気がついた。
「そうか……!」
僕たちは装置を手に、勇気を振り絞って兵士たちの前に飛び出した。
「住人だ!!かかれ!」
掛け声に呼応し襲い来る兵士たちに、みんなで目一杯の光を向けた。
兵士たちの動きが止まった。
「なんだ、この光はっ……!!!」
「眩しっ!!」
眩しがっている兵士たちは、なんの攻撃もしてこなかった。そりゃそうだ。眩しすぎて、目を開けていられないのだから。
僕は得意になって叫んだ。
「この家だけは譲らない!!」
「近づいたらもっと眩しいぞ!!!」
誰も傷つけたくない。
僕たちの研究室も失いたくない。
「て、撤退するぞ!!」
白い光を使った作戦はうまくいった。兵士たちは一目散に逃げていった。
研究室は守れたが、戦争は収まりそうにないどころか激化していた。
僕と親友の家も兵士たちの手に渡っていた。
もう僕たちには、畑も牧場も無い。そう思うと、何も考えたくなくなってしまった。
親友は外を散策してくると言って出かけてしまった。外は危険だからやめた方がいいと止めたけど、「外の空気を吸うと気が楽になるよ」と僕が逆に勧誘された。
親友の誘いは断った。
長老はすっかり解読に夢中になっていて、僕たちの悲しみに気づいていなさそうだった。でも、その小さな楽しみを味わっているような姿を見て、僕も気晴らしに翻訳の続きをすることにした。
「」
(あるときから、私は頭がぼーっとするようになった。)
「」
(同時期に私と同じ症状を訴え始めた者も沢山いた。)
「」
(調査団が近所を調べ歩いたところ、「サソラン」という寄生植物が悪さをしているらしかった。)
サソランは、よく木にぶら下がっている寄生植物だ。
「」
(聞いた話によれば、サソランは元々無害だったはずの植物が突然変異してできたらしい。)
「」
(そいつが排出するガスが、我々には毒なのだそうだ。)
僕たちにとっては何気なく食べている野菜の一種だけれど、彼らにとっては毒だったみたい。
「」
(しかも、かなりの繁殖力があるらしい。近い将来、奴らは我々の生活範囲全体に生息域を広げると考えられているそう。さらに厄介なことに、こいつは枯れても燃やしても種が飛び散る。)
「」
(だから、我々はこの苦しみを受け入れるしかないのだとか。)
解読した文までもが暗い話だった。
親友はなかなか戻ってこなかった。
僕は翻訳作業に疲れて、ぼーっと部屋の隅で積みあがった石を眺めていた。
重なり合っている石の端に、見慣れた誰かの文字が覗いている。
「この記録は、…」
「…には、忘れられてしまうだろうが…」
「石に書いておけばきっと、…」
単語帳を見なくても、もういくらかの内容が読み取れるようになっていた。
でもやっぱりなんだか落ち着かなくて、僕も一人で外に出ることにした。風を感じれば気分も変わるかもしれない。
遠くを見渡せば、煙の上がっていない場所はない。
落ち着かない気持ちで立ち止まっていたら、ふと考えが浮かんだ。
もしかしたら親友はまた石板を探してるのかもしれない。そんな気がして小走りで夜の方に行った。
夕族と夜族の住処の境目は激しい攻防戦だった。少しでも土地を広げたい夕族と、自分たちの居場所を奪われたくない夜族。兵士と間違われないよう、彼らとは距離をとりながら石板と親友を探した。
突然、夜の方から矢が飛んできた。びっくりして全速力で逃げた。
へとへとになりながら帰る途中、前に「居住地の確保に成功した」と書かれていた石があったことを思い出した。
「ただいまー。」
入口の方から親友の声が聞こえた。僕は反射的に玄関にすっ飛んでいった。
なかなか戻ってこなかったから心配だったけど、無事に帰ってきてくれて本当に良かった。
話を聞くと、親友はやっぱり石板を探していたらしい。
何も持ち帰っていなかったが、争いの巻き添えになったらしく、けがをしていた。
僕は元気づけようと、思い出した石のことを説明して一緒に訳そうと誘った。
「」
(我々は夕方の地域に暮らしていたが、先人の知恵のおかげで新たな居住地の確保に成功した。)
「」
(一つは高層建築。2階、3階、……というように同じような部屋を上に積み重ねて家を建築することで、狭い土地でも多くの人が住めるようになる。)
「」
(もう一つは空調設備。電気エネルギーを利用すれば、一部屋程度であれば気温を自由に調節できる装置が造れる。)
希望はある。
「空調設備、気になるね。」
そう親友に声をかけると、
「空調設備……?」
僕たちの声を聞いた長老が声を出した。
ちょうど、そのことについて書かれた石板を解読していたらしい。
全員総出で解読をし、光る装置のときと同じようにみんなで協力しながら作った。
試しに操作してみると、見事に熱風と冷風が出せた。
「すごいすごい!!」
3人とも喜びの声を上げた。
夢を見ているかのようだった。これがあれば、誰もがもっと広い範囲を行動できるはずだ。
「」
(我々に残された時間は少ないだろう。)
「」
(私自身、もういつ書けなくなるかわからない。)
「」
(あの毒は危険だ。だから死ぬ前に、とにかく、記録しなければという衝動に駆られている。)
「」
(将来、これを読むことができた誰かに伝えたいことがあるとすれば、終焉はいつ訪れるかわからないということ。)
「」
(それと……)
「」
(……知見の記録は大切だということ。たとえ君自身にしかわからない言語で書くとしても。)
戦争を止めないと。そんな衝動に駆り立てられ、光る道具と空調の道具を持って外に出た。
外には再びたくさんの兵士が集まっていた。
僕は光の装置で牽制したが、彼らは目をつぶってそのまま襲いかかってきた。
光はもはや役に立たなかった。
僕は抵抗できなかった。
「同じ手にはかからない。この前の仕返しだ!」
追い詰められた僕は、何もやり返せなかった。
「待てっ!!」
大きな声がした。
屋根の上に親友がいた。
「この装置が見えるか!」
兵士たちの視線が親友に集まる。親友は屋根の頂上の尖った部分を指さした。
「これはな、僕たちの技術で作った電波装置だ!」
兵士たちは皆きょとんとしていた。
「お前たちには分からないだろう。でもこの装置を使えば、お前たちなんて一発でやっつけられるんだぞ!」
「知ってるだろ、お前たちに僕たちの技術は追い越せないんだ!」
「分かったら降参しろ!降参しないなら、スイッチを入れてやる!」
親友は真っ直ぐ、自信に満ちた顔をしてそう言った。
兵士たちは混乱し始めた。どよめきの中から、一声、
「分かった。ここの制圧はやめにしよう。」
そんな言葉が聞こえた。そして、場は静まり返った。誰も反論する者はいなかった。
少しして、親友がまた声を上げた。
「それだけじゃだめだ!」
「お前たちは、皆が住めるくらいの土地が欲しくて戦ってるんだろ?!」
「技術を教えてやるから、この戦争を、終わらせる手伝いをしろ!」
そうして、研究室を壊そうとした兵士たちを巻き込んだ一大プロジェクトが始動した。
始めに、兵士たちに向けてある提案をした。
「土地不足の解決のために、僕たちに考えがあるんだ。」
みんなで協力して作ったのは、身に付けられる空調装置だ。服にして、中で温度調整ができるように作った。
完成した装置を動かすと、人々はたちまちそれに目を奪われた。
「なんだ、これ……。」
兵士たちを味方につけてから、戦争が集結するまでに、そう長い時間はかからなかった。
空調装置のおかげで、みんな今までよりも広い範囲を行動できるようになった。
昼族と夜族が話す言葉にも変化があったらしい。
夕族である僕たちの言語はまだここにこうして残っているけれど、
昼族はより暑い地域、夜族はより寒い地域に行けるようになったから、
より過酷な環境に適応するために工夫されたのではないかと考えられているそう。
寒い地域の言葉は、なるべく口を動かさないように、
短い単語で文章を作る抱合的な言語となった。
暑い地域は常にスコールが降っているので、
なるべく遠くまで声を届けられるように、
子音のみの単語は母音が挿入されるという変化が起きたそう。
いつの間にか、研究室は訳された先代文明の文献がいっぱい集まって、図書館と学校が合わさったような施設になっていた。
今日も、僕は道端に転がっている「宝石」を拾い歩く。